よむ介護

介護を通じて考えたことを書いていきます。

介護現場でも必要なマネジメントの基本を学ぶ

本ブログで紹介する記念すべき一冊目の本は、P.F.ドラッカーの『マネジメント――基本と原則』(ダイヤモンド社、2001年)です。 

マネジメント[エッセンシャル版] - 基本と原則

マネジメント[エッセンシャル版] - 基本と原則

 

 まさか、介護に関するブログでドラッカーを取り上げるとは! 自分でも驚きなのですが、しかし、この本は、もし介護現場である程度経験を積み、責任を任されるような立場(まあ、リーダーとか主任とか)になるような人であるなら、必読の書であると思います。

 

一般的にはビジネス書に分類される本だけど、サブタイトルに示されている通り、この本が提示するのは「基本と原則」。だから、介護現場に身をおくわたしが読んでも、納得させられることが多いと感じました。

 

介護とマネジメント、ってことばの結びつきに違和感があるような気もするけど、そういえば、いまの介護保険制度がベースとしているのは「ケアマネジメント」だったりするんですよね。むしろ、介護の現場で「マネジメント」の考え方って必要不可欠だったりします。

 

ただ、それは、ケアマネジャーとか管理者の話で、実際に介護をする人にとっては、関係ないことじゃないか、という意見もあるかもしれません。でも、考えてみれば、誰だって介護職員として働いているからには、組織の一員なわけで、その中では何らかのマネジメントのプロセスに巻き込まれているわけです。マネジャー的ポジションではないというだけであって、そこではマネジメントが確実に行われているわけですね。

 

で、そういうことは、確かに一介護職員なら意識しなくてもいいことかもしれないけど、後輩を指導したり上司へ報告したりといった立場にある人間にとっては、無視するわけにはいかないことなわけです。つまりは、人を動かしていかないといけないわけですからね。

 

そこで、このドラッカーの本の登場なわけですが、ここでは個人的に興味深いと思った部分を紹介しておきます。

 

まずは、「マネジャーの資質」に関する箇所。

マネジャーの仕事は、体系的な分析の対象となる。マネジャーにできなければならないことは、そのほとんどが教わらなくても学ぶことができる。しかし、学ぶことのできない資質、後天的に獲得することのできない資質、始めから身につけていかければならない資質が、一つだけある。才能ではない。真摯さである。(p.130)

ドラッカーはこの本の中で、何度か「真摯さ」について言及していますが、実はその真摯さとはいったい何かについて深く掘り下げた記述は見当たりません。自身も「定義は難しい」と書いている通り、それは「真摯さの欠如」の例示をもって示すという形になっています。たとえば、それは「強さよりも弱みに目を向ける」「何が正しいかよりも、誰が正しいかに関心を持つ」といった形で表されています(p.147)。

 

じゃあ果たして「真摯さ」とはなにか、ということをわたしは深く考えたくなってしまうのですが、しかし、それはここで置いておきましょう。ただ、ふと自分を顧みて、その部分はクリアできてるのかなあ、と思ったりします。

 

これは当然の話だと思うけど、人を動かしていくような立場にある人間がもし「真摯さに欠く」としたら、それは資質に欠いていると言われても仕方ないですよね。でも、現にそういう職員をいままでに見てきまたのも事実だったりします。そういう仕事に対する態度みたいなのは、教育以前の話というのも、言われてみればそうとしか言いようがないと思いますね。

 

あと、「組織」に関する、おそらく有名なこの箇所も大事かなと思いました。

 組織の目的は、凡人をして非凡なことを行わせることである。天才に頼ることはできない。天才はまれである。あてにできない。凡人から強みを引き出し、他の者の助けとすることができるか否かが、組織の良否を決定する。同時に、組織の役目は人の弱みを無意味にすることである。要するに、組織の良否は、そこに成果中心の精神があるか否かによって決まる。(p.145)

 これを読んで、思わずいま自分が所属している組織の問題を考えてしまいました。凡人をして非凡なことを行わせる仕組みになっていないなあ、というのが率直な思いですね。仕組みを整備すれば解決できることってもっとあるのになって日頃から思ってるのでね。きっと、マネジメントがうまくできていないんでしょうね(ってこう書くと他人ごとみたいだけど)。

 

これに続く「成果」に関する箇所も、なるほどを思わせる部分です。

成果とは何かを理解しなければならない。成果とは百発百中のことではない。百発百中は曲芸である。成果とは長期のものである。すなわち、まちがいや失敗をしない者を信用してはならないということである。それは、見せかけか、無難なこと、下らないことにしか手をつけない者である。成果とは打率である。弱みがないことを評価してはならない。そのようなことでは、意欲を失わせ、士気を損なう。人は、優れているほど多くのまちがいをおかす。優れているほど新しいことを試みる。(pp.145-6)

以前、職場の同僚と「失敗」について話していたのですが、失敗する機会が与えられないのはむしろ成長を妨げるということをちょうど話し合っていました。失敗から学べることもあるじゃないか、ってね。なので、この箇所を読んで「ああ、あの時の話とおんなじだ」 と膝を打ったりしました。

 

他にも注目すべき箇所はいろいろとあるのですが、これぐらいでやめておきます。とにかく、文書が平易で読みやすいので、マネジメントの基礎を学ぶには最適な一冊だと思います。

 

もちろん、介護現場にも応用可能な部分がたくさん含まれています。いつもと少し違った視点から、現場のことを考えてみるためのツールとしても活用できそうです。